8.13.2009

阿波踊り開幕!
かけ声はWatch Me!

 演舞場の真ん中で、車いすのお年寄りの一団が、付き添う人の手を借りてゆっくりと立ち上がった。

 よろめきながら体を揺する人、自由になる方の手でうちわを振る人。ああ、立って踊っている、と驚いた桟敷席から歓声が沸く。脳卒中などの後遺症をもつ人たちが参加する、「ねたきりになら連」の見せ場だ。

 15年前の8月12日。さいたま市の新井一枝さん(69)は、夫の昌雄さん(71)に寄り添いながら徳島空港に降り立った。どこからともなく聞こえてくるお囃子(はやし)、浴衣姿の空港職員。一枝さんは、普段はむすっとした昌雄さんの表情が緩んでいくのに気付いた。踊り子の像を見つけた昌雄さんは、一枝さんに写真を撮るよう頼んだ。

 ホテルで黄色と紫の浴衣に着替えさせると、どんどんにこやかになった。こんなに楽しそうなのは何年ぶりかな——。出番の後、みんなで囲んだ夕食で、下半身が動かない女性が言った。「世の中にこんな楽しいことがあるんなら、死んでなんかいられない」。一枝さんまで、前向きな気持ちになった。

 結婚したのは、一枝さんが23歳の時。バイトをしていた喫茶店に昌雄さんが通い詰めた。「今で言うストーカーよね」。植木等とお祭り騒ぎが大好きな、陽気な人柄にひかれた。昌雄さんは建築の基礎工事をする会社を起こし、一男一女も授かった。

 昌雄さんが50歳の時だった。夕飯時に箸(はし)を落とし、ろれつが回らなくなった。一枝さんは救急車を呼んだが、3連休の初日で病院に専門医がいない。昌雄さんは一時意識不明になり、連休明けになって脳内出血と診断された。脳の左前部に大きな血腫が見つかり、失語症と右半身不随の後遺症が残った。

 リハビリの日々。突然、「行かね」と外出しなくなった。わけを聴いても「うるせ」。全国の祭りを紹介するテレビ番組を見ながら、音に合わせて体を動かす時だけは楽しそうに見えた。そんな時、医師が、ねたきりになら連を紹介してくれた。「阿波踊り、行ってみようか」と尋ねてみた。「うん」。昌雄さんの目が輝いた。

 その後、一枝さんが入院した95年を除いて毎年参加。昌雄さんは阿波踊りが近づくと明るくなり、ニコニコしながら知り合いに手を振る。「主人の顔を見ていると、踊りの力がこっちにも乗り移ってくるんです」。だが、14回目となるはずだった昨年、一枝さんに腎臓がんが見つかった。

 ほとんど1人で昌雄さんの世話をし、失語症の患者や家族の会で事務局も務めてきた。昌雄さんには特別養護老人ホームに入ってもらい、5月に手術をした。

 「ウオッチ・ミー(私はここにいる)、ウオッチ・ミー」。連ならではのかけ声とともに昌雄さんを支え、車いすから立ち上がらせてきたことが、自分が生きる糧にもなっていた。「何かお返しがしたい」。今年、一枝さんは1人で徳島へ来て、ボランティアとして連を支える。連は13日、市役所前に登場する。(8.12.2009/asahi.comより)
写真は「ねたきりになら連」オフィシャルサイトより


19年前に失語症脳腫瘍と脳内出血の後遺症で
失語症と右半身不随となった、さいたま市の男性が
15年前から阿波踊りに参加しているそうです。

普段は感情も低く、外出嫌いにもなりがちな
この方が、阿波踊りの時だけは目が輝くとのこと。

おそらくですが、失語症になるまでは阿波踊りには
参加していなかったと思われますが、
正直、不思議なものです。


昨日12日放送の「ベストハウス1.2.3」に
完全に感化されている僕ですが、
言葉や感情をそれまでほど操れなくなったり
周りの目をそれまでほど意識しなくなってから
表面化するようになる「欲求」や「感性」がある
ということ、そしてそれがその人にとって
ほんとうに求めているものかもしれないということが
哀しくも素晴らしいな、と思います。

そして、介護する側もそのことで
自分が必要とされている事を確認出来て
生き甲斐となれば、これも素晴らしいと思います。

「地獄」と形容されるほど、過酷な介護ですが
その時が幸せな時間となる方が増えることを願います。

かけ声が「Watch Me!(私を見て!)」
というのもいいですね。

2 件のコメント:

  1. 駅に降りた瞬間から
    太鼓と鐘の音というより振動が
    体を揺らす日本最大のレイブ「阿波踊り」
    の中にいれるのであれば
    年に一度のその日の為に
    生きる事ができるって思てるのは
    何もハンディキャップドだけではないのです。

    何よりも
    阿波踊りという壮大なスケールの非日常を
    街が支えているという事実こそが
    非常に重要なんじゃないでしょうか。

    神戸もサンバカーニバルやるんだったら
    とことん周りを巻き込んで欲しいものです。

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  2. レイヴですね〜

    この記事で思ったのは、
    この埼玉の男性はもともと
    阿波踊りのファンではなかったらしいのに
    覚醒させるものがあったということ。

    「祭り」と「生死」は近い関係のはずなので、
    野性に共鳴する原始的な波動が
    阿波踊りには、やっぱりあるんでしょうか。

    サンバカーニバル…
    たぶん、ベクトルが違うと思います。
    カメラ小僧の野性には火をつけていると思いますが。

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