よろめきながら体を揺する人、自由になる方の手でうちわを振る人。ああ、立って踊っている、と驚いた桟敷席から歓声が沸く。脳卒中などの後遺症をもつ人たちが参加する、「ねたきりになら連」の見せ場だ。
15年前の8月12日。さいたま市の新井一枝さん(69)は、夫の昌雄さん(71)に寄り添いながら徳島空港に降り立った。どこからともなく聞こえてくるお囃子(はやし)、浴衣姿の空港職員。一枝さんは、普段はむすっとした昌雄さんの表情が緩んでいくのに気付いた。踊り子の像を見つけた昌雄さんは、一枝さんに写真を撮るよう頼んだ。
ホテルで黄色と紫の浴衣に着替えさせると、どんどんにこやかになった。こんなに楽しそうなのは何年ぶりかな——。出番の後、みんなで囲んだ夕食で、下半身が動かない女性が言った。「世の中にこんな楽しいことがあるんなら、死んでなんかいられない」。一枝さんまで、前向きな気持ちになった。
結婚したのは、一枝さんが23歳の時。バイトをしていた喫茶店に昌雄さんが通い詰めた。「今で言うストーカーよね」。植木等とお祭り騒ぎが大好きな、陽気な人柄にひかれた。昌雄さんは建築の基礎工事をする会社を起こし、一男一女も授かった。
昌雄さんが50歳の時だった。夕飯時に箸(はし)を落とし、ろれつが回らなくなった。一枝さんは救急車を呼んだが、3連休の初日で病院に専門医がいない。昌雄さんは一時意識不明になり、連休明けになって脳内出血と診断された。脳の左前部に大きな血腫が見つかり、失語症と右半身不随の後遺症が残った。
リハビリの日々。突然、「行かね」と外出しなくなった。わけを聴いても「うるせ」。全国の祭りを紹介するテレビ番組を見ながら、音に合わせて体を動かす時だけは楽しそうに見えた。そんな時、医師が、ねたきりになら連を紹介してくれた。「阿波踊り、行ってみようか」と尋ねてみた。「うん」。昌雄さんの目が輝いた。
その後、一枝さんが入院した95年を除いて毎年参加。昌雄さんは阿波踊りが近づくと明るくなり、ニコニコしながら知り合いに手を振る。「主人の顔を見ていると、踊りの力がこっちにも乗り移ってくるんです」。だが、14回目となるはずだった昨年、一枝さんに腎臓がんが見つかった。
ほとんど1人で昌雄さんの世話をし、失語症の患者や家族の会で事務局も務めてきた。昌雄さんには特別養護老人ホームに入ってもらい、5月に手術をした。
「ウオッチ・ミー(私はここにいる)、ウオッチ・ミー」。連ならではのかけ声とともに昌雄さんを支え、車いすから立ち上がらせてきたことが、自分が生きる糧にもなっていた。「何かお返しがしたい」。今年、一枝さんは1人で徳島へ来て、ボランティアとして連を支える。連は13日、市役所前に登場する。(8.12.2009/asahi.comより)
写真は「ねたきりになら連」オフィシャルサイトより
19年前に失語症脳腫瘍と脳内出血の後遺症で
失語症と右半身不随となった、さいたま市の男性が
15年前から阿波踊りに参加しているそうです。
普段は感情も低く、外出嫌いにもなりがちな
この方が、阿波踊りの時だけは目が輝くとのこと。
おそらくですが、失語症になるまでは阿波踊りには
参加していなかったと思われますが、
正直、不思議なものです。
昨日12日放送の「ベストハウス1.2.3」に
完全に感化されている僕ですが、
言葉や感情をそれまでほど操れなくなったり
周りの目をそれまでほど意識しなくなってから
表面化するようになる「欲求」や「感性」がある
ということ、そしてそれがその人にとって
ほんとうに求めているものかもしれないということが
哀しくも素晴らしいな、と思います。
そして、介護する側もそのことで
自分が必要とされている事を確認出来て
生き甲斐となれば、これも素晴らしいと思います。
「地獄」と形容されるほど、過酷な介護ですが
その時が幸せな時間となる方が増えることを願います。
かけ声が「Watch Me!(私を見て!)」
というのもいいですね。
駅に降りた瞬間から
返信削除太鼓と鐘の音というより振動が
体を揺らす日本最大のレイブ「阿波踊り」
の中にいれるのであれば
年に一度のその日の為に
生きる事ができるって思てるのは
何もハンディキャップドだけではないのです。
何よりも
阿波踊りという壮大なスケールの非日常を
街が支えているという事実こそが
非常に重要なんじゃないでしょうか。
神戸もサンバカーニバルやるんだったら
とことん周りを巻き込んで欲しいものです。
レイヴですね〜
返信削除この記事で思ったのは、
この埼玉の男性はもともと
阿波踊りのファンではなかったらしいのに
覚醒させるものがあったということ。
「祭り」と「生死」は近い関係のはずなので、
野性に共鳴する原始的な波動が
阿波踊りには、やっぱりあるんでしょうか。
サンバカーニバル…
たぶん、ベクトルが違うと思います。
カメラ小僧の野性には火をつけていると思いますが。